大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成7年(ワ)8565号 判決

原告 大阪府中小企業信用保証協会

右代表者理事 伴恭二

右訴訟代理人弁護士 富田貞彦

大家素幸

被告 破産者吉村惠美破産管財人 水野武夫

右訴訟代理人弁護士 木村圭二郎

主文

一  原告が破産者吉村惠美に対し、大阪地方裁判所平成二年(フ)第三七七号破産事件につき、原告の訴外コスモ株式会社に対する求償債権に係る保証債務履行請求権金七九八二万八三九九円の破産債権を有することを確定する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

一  原告は、「原告が破産者吉村惠美に対し、大阪地方裁判所平成二年(フ)第三七七号破産事件につき、原告の訴外コスモ株式会社に対する求償債権に係る保証債務履行請求権金七九八二万八三九九円の破産債権又は訴外株式会社幸福銀行が訴外コスモ株式会社に対する貸付金債権に係る保証債務履行請求権金七九八二万八三九九円の破産債権を有することを確定する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、別紙≪省略≫のとおり請求の原因及び抗弁に対する認否を述べた。

二  被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、別紙のとおり請求の原因に対する認否及び抗弁を述べた。

三  証拠の関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

四  そこで、以下、検討する。

1  請求の原因一ないし六の各事実は当事者間に争いがない。

2  同七の事実のうち、原告が請求の原因一記載の訴外会社の借入先である訴外株式会社幸福銀行から保証債務の履行を受けたこと、原告が訴外会社に代わって、訴外株式会社幸福銀行に対し原告主張の各金員の支払をなしたこと、①の利息のうち、破産宣告日の前日である平成二年七月二六日までの利息は、金三一万九〇三七円であること、②の利息のうち、破産宣告日の前日である平成二年七月二六日までの利息は、金一九万一四二二円であること、破産宣告日の前日までの債権元利合計が金七九八二万八三九九円となることは当事者間に争いがなく、その余は、≪証拠省略≫により認めることができる。

3  同八の事実は当事者間に争いがない。

4  同九の事実のうち、括弧書部分を除き、その余は当事者間に争いがない。

なお、原告は、平成二年一二月二八日付け破産債権変更上申書(≪証拠省略≫)により、届出に係る破産債権を、①平成二年八月二七日、既に届出をしていた、原告の訴外コスモ株式会社に対する求償債権に係る破産者吉村惠美に対する将来の保証債務履行請求権の届出を、右将来の保証債務履行請求権が、原告の平成二年一一月二二日代位弁済により、具体的な保証債務履行請求権となった債権(以下「求償保証債権」ともいう。)、②右代位弁済により、原告が民法五〇〇条に基づき、債権者である訴外株式会社幸福銀行がその貸付金につき、破産者吉村惠美との間に締結した連帯保証契約に基づく保証履行請求権(以下「原保証債権」ともいう。)の二個の債権に変更したものであると主張する。

しかしながら、右破産債権変更上申書により、右①の求償保証債権について届出の事実は認められるが、右②の原保証債権についてまで届出がなされたと認めることができない。けだし、≪証拠省略≫及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成二年八月二七日、将来の保証債権として、金八〇四八万〇〇〇一円の届出(≪証拠省略≫)をなしたこと、右届出債権の証拠書類として、平成二年三月二六日付け信用保証委託契約書(≪証拠省略≫)が提出されたこと、その後、原告は、平成二年一二月二八日、金七九八二万八三九九円の破産債権変更上申書を提出したが、右提出の理由は、原告が代位弁済をしたことにより現実の保証債務履行請求権の金額が確定したことによるものであること、そのため、右破産債権変更上申書中において、債権の内容につき、原保証債権ではなく、「代位弁済金額」として、その金額(金七九八二万八三九九円)が表示されていること、その原因につき、「信用保証委託契約日」として平成二年三月二六日付け信用保証委託契約書(≪証拠省略≫)の日付である「平成二年三月二六日」が援用されていること、他方、届出債権の証拠書類として、原保証債権の発生を証するべき根拠となる平成元年四月二八日付け保証書(≪証拠省略≫)の提出がないことが認められることから、明らかである。

5  次に、被告の抗弁(破産法七二条五号該当を理由とする否認権の行使)について、判断する。

破産者吉村惠美が訴外会社の代表取締役であって、同人が訴外会社のため、破産宣告を受ける三か月前の平成二年三月二六日に、原告の訴外会社に対する保証委託契約に基づく求償債権につき、連帯保証(以下「本件連帯保証」という。)をしたことは、当事者間に争いがない。弁論の全趣旨によれば、破産者吉村惠美が、その際、格別、保証料等の金銭の給付を受けていないことが認められる。

ところで、破産者吉村惠美は、訴外会社の代表取締役として、同会社を経営していたが、平成元年四月二八日、訴外会社が訴外株式会社幸福銀行と銀行取引を開始するに当たり、手形貸付、証書貸付、その他一切の取引により、訴外株式会社幸福銀行に対して負担する現在及び将来の一切の債務について、連帯保証をしたことは当事者間に争いがない。

右事実によれば、破産者吉村惠美は、既に、右包括的債務保証により、訴外株式会社幸福銀行に対し、訴外会社の訴外株式会社幸福銀行に対する右一切の取引に係る債務を返済すべき義務を負っていたことになる。また、原告は、訴外会社の委託により、平成二年三月二六日、訴外会社が訴外株式会社幸福銀行から請求の原因一記載の各金員を借り入れるに当たり、信用保証をし、訴外会社が右借入金債務の履行をしないため、訴外会社に代わって、代位弁済したものであるから、破産者吉村惠美による本件連帯保証の有無にかかわらず、法律上、当然に訴外株式会社幸福銀行が訴外会社及びその連帯保証人たる破産者吉村惠美に対して有していた権利を行使することができたものである。

ところで、一般に、破産者が義務なくして、他人のためにした保証等は、破産者がその対価として、経済的利益を受けていない限り、破産法七二条五号にいう無償行為に当たるものと解されるが、否認権の制度の趣旨からすれば、同条により否認される行為は、これによって破産財団が減少し、その結果として、一般債権者を害するものに限られるべきである。

これを本件についてみるに、前記のとおり、破産者吉村惠美は、既に、前記包括的債務保証により、連帯保証人として、訴外株式会社幸福銀行に対し、訴外会社の借入金債務を返済すべき義務を負っていたのであるから、本件連帯保証をしたことにより、従前以上の負担を負うこととなったものではなく、原告は、本件連帯保証がなかったとしても、訴外会社の右借入金債務を代位弁済したことにより、訴外株式会社幸福銀行が訴外会社及びその連帯保証人たる破産者吉村惠美に対して有していた権利を求償権の限度で法律上当然に行使しうるものである(もっとも、右借入金債務について発生の遅延損害金の利率は、年一四パーセントであるのに対し、本件保証委託契約に係る債務につき発生の遅延損害金の利率は、年一四・六パーセントであるが、原告は、遅延損害金については何ら債権届出をなさず、本訴において、これが確定を求めていない。しかも、原告は、代位弁済に係る、訴外会社の訴外株式会社幸福銀行からの借入金の残元金及びこれに対する約定の利率に係る利息金の限度で、その一部につき、債権届出をなし、その確定を求めているにすぎない。≪証拠省略≫)。したがって、破産者吉村惠美が原告の訴外会社に対する保証委託契約に基づく求償債権につき本件連帯保証をしたことにより、同人の破産財団が減少したとはいえず、したがって、一般債権者を害することとはなったとはいえない。

それゆえ、本件連帯保証は、いわゆる「有害性」の要件を欠くので、破産法七二条五号による否認をすることはできない。

したがって、被告の抗弁は理由がない。

五  以上によれば、原告は、破産者吉村惠美に対し、大阪地方裁判所平成二年(フ)第三七七号破産事件につき、原告の訴外会社に対する求償債権に係る保証債務履行請求権金七九八二万八三九九円の破産債権を有するということができる。なお、この点において、債権表の記載の債権と原告が本訴において確定を求める債権との間に相違はない。

六  よって、原告の請求は理由があるので、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中路義彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例